読書

「たとへば君 四十年の恋歌」河野裕子・永田和宏

昨年 2010年8月、乳がんで亡くなられた歌人 河野裕子(かわのゆうこ)さんの生涯と思い出を、ご夫君の永田和宏さんが、河野さんの歌、随筆そしてご自身の歌を引用しつつ、綴られた書。
歌人としての河野さん、そして 息苦しさを感じつつこの世を生き続けてきた繊細な、人としての河野裕子の姿が見えてきて、まったく歌をたしなむ素養などない私でも、その世界に引き込まれてしまいました。
学生時代に知りあった河野さんと永田さん。

現実の世界が、ひりひりと 神経をいため、内向して自分を守ることしか知らなかった私は、彼という被膜を通すことによって、世の中と、うまく折り合いをつけて生きてゆく方法を見つけかけていたといえよう。

運命的な出会いであったのでしょう。
人によっては、「世の中と、うまく折り合いをつけて生きてゆく」ということほど難しいことはありません。
それが永田さんを通して可能となり、歌人、河野裕子がその輝きを増していったのだ、と思いました。
そして、この書はまた、癌患者と家族の壮絶な物語でもあるのです。
もし、愛する家族が癌におかされたら、どう向き合うのか、どう寄り添うのか
どんなにがんばっても他者が引き受けることはできないのが病
  

今ならばまつすぐに言ふ夫ならば庇って欲しかつた医学書閉ぢて

と、詠みつつも、

私の同じひとつの体でありながら、左半身の苦痛を右半身でさえ分かってやることができない。だから、他人に分かってもらおうなんていうのは初めから無理なこと。
人の心も体の痛みも、自分自身の、それさえわかっていないというのが人間という存在なのだと思い知るようになった。

私も父を胃癌で、最後は自宅で、見送っています。
家族も疲弊していき、息を詰めるような毎日。
永田さんはじめご家族の苦難は計り知れないものだったでしょう。
そんな思いもあり、後半は辛くて、切なくて、泣きながら、嗚咽をあげそうになりながら、なんとか最後まで読み終えました。
  

手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が

短歌になじみの無い方にも広く読まれて欲しい一冊です。

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