やられた、というのが正直な感想
この作品で、
森絵都という作家の奥深さを感じさせられた
森絵都という作家を、より好きになった
「アーモンド入りチョコレートのワルツ」や「ダイブ!!」などの、いわゆるヤングアダルトを対象とした、それまでの作品では、個々の存在の「愛おしさ」を感じられ、読んでいると気持ち柔らかくなり心が温まる、そんな感じだった。
しかし、この作品では、自分自身の、意識してはいるが、はっきりとさせたくない、そんな、痛み、脆い感情をむき出しにされた。
タイトルとなっている、「風に舞いあがるビニールシート」も、その他の物語も、ある意味、前向きな、希望の持てる終わりかたではあるものの、読み終えたいま、心に重りが乗せられたような状態。
いまいちど、自分と向き合い、答えをだしなさい、との課題をもらったような気分になっている。
「犬の散歩」という作品の中に、イラク日本人人質事件について語られている部分がある。
イタリアンレストランでランチをとる主人公 恵利子は、耳に入ってきた、人質3人に対する批判的な言葉、当時の日本政府やマスコミ論調そのままの無責任な「自己責任」という言葉で象徴される論調、の主婦たちの会話に、
が、しかしそのとき唐突に、同じようにふんぞり返っている背後の声がひどくグロテスクな冗談のように響いたのだ。
そして、
それは自分ではなく、自分とよく似た誰かの声であるにもかかわらず、恵利子はなんとも言い難い羞恥の念に襲われた。−いや、それがあまりにも自分とよく似ただれかの声であったが故かもしれない。
と、思いを抱く。
そして、いまもこの国は…
自分以外の誰かのためになにかをしようとした若者たちを弾劾する
ことをグロテスクと感じること、風に舞いあがるビニールシート
のような存在に、思いを巡らせること。
そんな人々、思いを描いてくれたことは貴重。
さて、自分はどうしていくのか、どう関わっていくのか…
*上記、引用は「文春文庫版 2009年4月10日 第1刷」より