これは1人でも多くの方に読んで欲しい良書。
インターネットによって、情報量が飛躍的に増大し、情報発信が手軽にできるようになった現在だからこそ、なおさらです。
著者、下村健一さんは、かってTBSの記者として、TVの現場で活躍されていました。
私も、(オウム真理教による)松本サリン事件の報道で知りました。
いまでこそ(オウム真理教による)と書いても不思議に思われませんが、その当時、大半のマスコミ報道、それを真に受けてしまった一般社会の認識は、(河野義行さんによる)でした。
そんな中で異彩を放っていたのが下村健一さんたちによる報道でした。
その後の活動の様子もWebサイトなどで注視し、多くの気付きを与えてくれる、信頼できるジャーナリストです。
ちなみに同じ年に生まれていますので、なおさら親近感を感じます。
マスコミは何を伝えないか ―― メディア社会の賢い生き方 ―― / 下村健一
この本は下記の4章からなっています。
第1章 報道被害はなぜなくならないのか?――悪意なき《見えざる手》
第2章 マスコミ自身による解決の道――《修復的報道》という提案
第3章 自らが発信する時代へ――新たな担い手「市民メディア」とは何か?
第4章 メディア社会を賢く生きるために――メディア・リテラシーを養う
第1章では、意図的な捏造ではなく、報道側がなんの悪意もなく、結果的に加害者になってしまう、というマスコミの性質、システムについて分析。
たとえば、イラク人質事件。人質になった3人の若者に対して電話やFAXで寄せられた声は、激励し3人の身を心配するものの方が多く、それを批判するものは半分以下、であった。
その批判に対してとんでもないことだ、と思ったある記者が「批判相次ぐ」と報じたところ、批判に拍車がかかってしまった。
と、いった著者が実際に体験・経験してしてきた例をあげ、分かりやすく解き明かされています。
第2章では、第1章で提示された問題に対して、どうマスコミ自身が対処していくか、「修復的報道」を提起。
第3章では市民による情報の発信「市民メディア」意義と問題点
そして、第4章では、これからますます重要となってくるメディア・リテラシーについて考察。<<マスコミ報道の限界>>、<<市民メディアの副作用>>(その弱点・問題点)を知った上で、<<受信力>>と<<発信力>>をたかめていく必要性とその方法について書かれています。
受信力がないとどうなるか。
たとえば松本サリン事件では、
「河野が犯人だ」→クロ説に反する報道→「非国民!」ファックス、手紙の山
多くの市民が単に躍らされた《被害者》から《加害者》へとなっていく構図。
これはいまでも相変わらず続いています。
そうした受信力を磨くため、<<想像のスイッチ>>を入れる、ことが重要だと著者は説いています。
映像がすべて、と思わない、想像力を働かせることが何より重要なのです。
そして、<<制作実習>>を行い、作り手(発信者)の視点をもつことによってより<<受信力>>が高まっていくとのこと。
また、章末の中村純子さんとの対談では、メディア・リテラシー教育の歴史や実践について知ることができ、仕事柄大変参考になりました。
現在、学校でもメディアリテラシー教育は行われつつあるものもまだまだ不十分。
私も授業の中で何とか実践していきたいと思います。
一人ひとりが情報に躍らされない<<受信力>>と的確に迅速に情報を伝える<<発信力>>を身につけていくための、よいテキストです。
インターネットの情報については、中で少し触れられていますが、あまり詳しくは書かれていません。
特にインターネットでの情報の発信、受信に関しての良い参考書はまた別にご紹介したいと思います。
しかし、Amazonのレビューでも、「え?、この人ちゃんと読んだ?」とか、「なんで調べればわかる情報を、一次情報までたどり着ける情報があるのに、調べずに憶測で書いているの」というものがあります。
この本の内容が内容だけに、ちょっとがっかりします。
そんな方はいらっしゃらないとは思いますが、☆の数だけで判断しないようにしましょう。
食べログ、@cosme、などもいま騒がれていますが、しっかりと情報を見極める目を持つことが必要ですね。
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